プロジェクト紹介

夜行性鳥類の自動認識装置の開発


夜行性鳥類の全国的なモニタリング体制の確立をめざして


 環境省の環境技術開発等推進費の研究プロジェクトとして「音声認識装置による夜行性鳥類の自動調査システム開発に関する研究」が採択されました。この研究はバードリサーチの会員でもある熊本大学の三田長久教授が中心となって行なうもので、バードリサーチも研究分担者として、このプロジェクトのために鳥の鳴き声の収集や装置の現地調査への適用の検討などを行ないました。

研究の目的


 ご存知のとおり、ヨタカやヒクイナなど夜行性鳥類には減少していると思われるものが多くいます。しかし、鳥の多くは昼行性のため、環境省の繁殖分布調査やモニタリングサイト1000などの調査でも昼行性の鳥を対象に調査が組まれ、夜行性の鳥については、ほとんど現地調査が行なわれていません。また、実際に調査を行なおうとしても、暗い夜の山や湿地は危険が伴い、さらに睡魔も襲ってきます。そのため、全国的な調査は実施するのが困難な現状です。
 そこで、私たちは、熊本大学の三田長久教授とともに、夜行性の鳥の鳴き声の自動認識装置をもちいた自動記録装置を開発して、この問題を解消したいと考え、このプロジェクトを企画しました。幸いなことに、環境省の環境技術開発等推進費の新規課題に採択され、2006年度、2007年度で第一段階の装置の開発を行ないました。

実施した内容


● 自動認識の辞書となる夜行性鳥類の声の収集
 音声認識をするためには,まず,その辞書となる夜行性の鳥の声が必要です。多くの方にご協力をいただき,また,現地録音も行ない,夜行性の鳥の声を収集しました。森林性のもの,草原性のものあわせて36種について計338の音源を収集し,データベース化しました。どのような音源があるかは,以下のページより見ることができます。一部の音源は聞いたりダウンロードしたりすることもできますし,学術目的に限り,それ以外の音源も,録音者の同意を得られれば提供することができます。

● 自動記録装置の開発
 次に自動認識装置の開発です。これは熊本大学マルチメディア環境情報研究室で開発が進められました。自動記録装置は2つの部分からなります。長時間記録した録音音源からの鳥が鳴いている部分の抽出,そしてその鳥の種の識別です。
・夜行性の鳥の声の抽出:
 鳥の声の抽出は音圧の分散および自己相関をもとに行なうことにしました。長時間録音のデータは鳥の鳴いていない部分と鳴いている部分からなります。鳴いていない部分は定常的な雑音があるだけで,音圧の分散が比較的小さい状況にあります。逆に鳥が鳴いている部分は,鳥の声の強弱に加え,鳴いていない部分もあるので,音圧の分散が大きくなります。この違いを利用して,鳥の鳴いている部分を抜き出します。また枝葉が落ちたりなどといった突発的な雑音を除くために自己相関を使っています。突発的な音には音圧に自己相関がありませんが,鳥が鳴いている場合は,ある程度声が続くので,音圧に自己相関がでてきます。この違いを抽出に利用します。この仕組みでプログラムを作成し,90%程度の声を抽出することができるようになりました。抽出漏れする音は,雑音に完全に埋もれてしまうような遠くで鳴いている声で,これは人も聞き漏らしがちなものなので,大きな問題にはならないと思います。
・夜行性の鳥の識別:
 鳴き声の識別は抽出した鳥の音源をさらに細かく周波数帯別の音の強さにして,それをニューラルネットワークという仕組みで識別するプログラムを開発しました。鳴き声は種により声の高さやその変動パターンが違います。その違いをニューラルネットワークが学習し,識別ができるようするのです。この仕組みにより,森林性の鳥で90%以上,草原性の鳥で80%程度の識別ができるようになりました。


● 効率的な調査時刻の検討
 夜行性鳥類を音声をもとに調査するにあたって,調査に良い時間帯と録音でどれくらいの鳴き声を把握できるかについて調べました。北海道から南大東島までの24か所の森林で調査を行なったところ,一部の種を除き,日の出と日没前後に良く鳴くことがわかりました。また,録音による記録は人による聞き取りと遜色はなく,録音という手法が有効であることがわかりました。詳細はこちら

今後の計画


 このように,音声認識装置の骨子はできあがりました。ただ,プログラムは技術者は使えるけれども,一般の人が使えるようなものにはなっていません。今後は操作性を良くして誰でも使えるようにすると共に,どうやって音声認識装置を活用すれば夜行性鳥類を効率的に調査できるかなどのノウハウをためて,近い将来,実際の調査を実施したいと思っています。

自動調査システムのイメージ
クリックするとホトトギスの鳴き声が聞こえます。
(音声を聞くにはQuicktimeのプラグインをインストールしている必要があります)