プロジェクト紹介

レーダーを使った渡り鳥調査


 渡り鳥の調査方法としては、目視による観察、標識調査、衛星追跡調査などがあります。最近、人工衛星を使った衛星追跡調査により様々な鳥類の渡りの経路が明らかになってきました。この方法は、送信機を装着した個体の移動を詳細に追える利点がある反面、大型の鳥でないと送信機が付けられませんし、群れの動きまではわからないという欠点もあります。
 小型の鳥の多くは夜に渡ります。そのため目視による観察はできませんし、なかなか研究は進んでいません。小鳥や群れの移動を追う方法として海外では、気象レーダーや軍事レーダーを使った調査が行なわれ、多くの成果があげられてきました。そんな調査を日本でもしたいと思い,船舶レーダーを用いた調査を実施しています。さらに環境省や気象庁に働きかけをしていたところ気象レーダーを使った調査を実施できることになりました。


レーダーを用いた渡り鳥調査手法開発調査


環境省委託調査
 ウィンドプロファイラという2001年に運用が始まったばかりの風を探知する最新の気象観測機器があります。このレーダーに鳥らしきものが映っているという論文が発表されました(加藤ほか 2003小林ほか 2005)。本調査では、これらのエコーは春と秋に多く、夏に少ないなど渡り鳥のパターンと一致するのですが、本当に渡り鳥なのかを現地調査により検証します。鳴きながら渡っていく渡り鳥の声を聞き取ったり、録音するとともに、月をビデオ録画し、そこを通過していく鳥の数を記録し、それらとエコーの出現状況を比較します。また、過去の情報を整理して、全国の渡り鳥の飛来パターンを明らかにすることを目指します。

2005年度の調査結果
日本鳥学会での発表内容


レーダードームから望む満月
望遠鏡を使って月面をビデオに記録して鳥の通過頻度を調べ、レーダー画像パターンとの関連を分析する。
望遠鏡を使って月面をビデオに記録して鳥の通過頻度を調べ、レーダー画像パターンとの関連を分析する。

船舶レーダーを使った鳥の移動追跡


独自調査
 船舶レーダーは,元来,船の障害物を探るためのレーダーですが,障害物と同様に,鳥からの反射もレーダーに映ります。この特性を利用して,鳥の移動経路の調査を行なっています。最初に調査したのはミヤマガラスの渡りの調査です。文部科学省科学技術総合総合研究委託として行なったものですが,出雲地方からミヤマガラスが日本海を越えて朝鮮半島へと向かう様子を追跡することができました。また,カワウが採食地に向かう様子,サシバやハチクマの渡りの様子も追跡できています。サシバやハチクマの渡りの調査では上昇気流をつかむ位置がかなり決まっていて,午前と午後では傾向が変わることがわかってきました(BR News 2011/10)。今後,風や上昇気流の発生位置と比較することにより,タカの渡り経路を決めている気象要素を明らかにできるかもしれません。


動画:カワウの移動状況のレーダー映像
動画:サシバとハチクマの渡り状況のレーダー映像


レーダー画像を地図と重ねることで,どこをタカが渡っているのかがわかる

船舶レーダーを使った鳥の飛翔高度の研究


北海道大学低温科学研究所との共同研究
 レーダーを通常の水平方向ではなく縦方向でスキャンすることにより,鳥の飛翔高度を知ることができます。また,上空方向には障害物がないので,高出力でレーダーを動作させることが可能で,小鳥類をも捉えることが可能です。この特性を使い,夜間にわたる小鳥類の飛翔高度と飛翔高度の選択要因を明らかにするための調査を北海道大学低温科学研究所と共同で行なっています。船舶レーダーで鳥の飛翔高度を把握するとともに,北海道大学の気象観測機器を使って上空の大気構造や風を把握して,それを比較することにより,小鳥類の飛翔高度選択要因を明らかにすることを目指しています。    

動画:上空を渡る小鳥のレーダー映像
動画:帆翔するサシバのレーダー映像