プロジェクト紹介
ハヤブサ繁殖状況モニタリング

ハヤブサの現状
1970年代,1990年代,2010年代に行なわれた全国鳥類繁殖分布調査の結果から,ハヤブサが1970年代から分布を拡大していることが明らかになっています(図1)。また,広島県を中心とした広域調査でも,繁殖数,特に内陸部での繁殖の増加が報告されています(山田
2023)。
図1 ハヤブサの分布の変化。赤丸が繁殖の確認された場所,黄緑の丸は生息の確認されている場所。植田・植村(2021)を基に描く。
同様の分布拡大は日本に生息するほかの猛禽類にも認められています(植田・植村 2021)。原因は明らかでありませんが,海外の研究では,1950~1960年代に農薬等によりハヤブサをはじめとした猛禽類やサギ類など大型の鳥類が,直接的な死亡,卵殻が薄くなることによるふ化率の低下などで減少し,そうした毒性・残留性の強い農薬の規制により個体数を回復していることが知られています(Newton 1979,1998)。日本でも,これらの農薬は同じタイミングで使用,規制されており,猛禽類の増減時期とも重なることから,同様の原因で減少した後の回復過程にあるものと思われます。
繁殖モニタリングの必要性
ハヤブサは,現在,レッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類であり,種の保存法の希少野生動植物種に指定されています。こうした個体数回復の現状から,将来,ハヤブサのレッドリストのランクが下げられることや,希少野生動植物種からの解除が検討がされる可能性があります。
しかし,鳥インフルエンザによる死亡するハヤブサが増加していることとともに,近年繁殖するようになった採石地や人工構造物の繁殖地では,営巣放棄する場所や繁殖成績の悪い場所が多いなどの懸念材料もあります(図2)。希少野生動植物種からの解除は,すでにオオタカで行なわれましたが,解除後に減少や繁殖成績の低下がみられるなど(植田ほか
2022),猛禽類のような長寿の鳥の将来を見通すことは簡単ではありません。
図2 営巣場所別のハヤブサの営巣地の継続率。山田(2023)を基に描く。
そこで,一般財団法人INPEX JODCO財団の協力を受け,ハヤブサの将来の個体群動態に大きな影響を与える繁殖状況をモニタリングする調査を実施することにしました。繁殖の成否や巣立ちビナ数の変化を記録する調査です。集まったデータは,地域単位で繁殖成功率や巣立ちヒナ数等とその変化についてとりまとめ,位置情報の公開などは行ないません。ぜひ調査への協力をお願いします。ハヤブサの繁殖の観察をされている方は,以下のフォームより,繁殖情報を登録ください。観察にあたっては,崖の向きなどで巣が見えない場合はわかる範囲の情報をお送りいただくなど,ご自身の安全やハヤブサの繁殖に影響がないように配慮ください。モニタリングに参加いただいた方には,毎年の繁殖状況のレポートをお送りさせていただきます。

共同実施団体
泉大津ハヤブサ・サポート倶楽部,瀬戸内海ハヤブサ研究会,バードリサーチ,北陸鳥類調査研究所
引用文献
Newton I (1979) Population Ecology of Raptors. T&AD Poyser.
Newton I (1998) Population Limitation in Birds. Elsevier Ltd.
植田睦之・植村慎吾 (2021) 全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年.鳥類繁殖 分布調査会,府中市.
植田睦之・遠藤孝一・高橋誠・内田博・平井克亥・今森達也・天野弘朗 (2022) オオタカの繁殖状況と国内希少野生動植物種からの解除の影響.Bird Research 18: A99-A107.
山田一太 (2023) 広島県におけるハヤブサの営巣数の変化と営巣環境.Bird Research 19: S23-S26.