イベント

トモエガモ国際シンポジウム(YouTubeライブ中継)

 環境省の絶滅危惧種に指定されているトモエガモですが、最近10年ほどで急激な増加が見られ、2022/23年越冬期は全国で約17万羽が越冬しました。トモエガモは東アジアだけに生息する種です。繁殖地のロシアと以前からトモエガモの越冬が多い韓国のガンカモ類の研究者に参加してもらい、情報を共有するためのシンポジウムを開催します。
 

開催日時

2024年3月2日(土) 14:00~17:00時 YouTubeでライブ中継します
Youtubeのチャット欄で質問ができますが、そのためにはGoogleアカウントにログインする必要があります。質問できるのは当日のみですが、同じURLで録画放送もご覧いただけます。

配信URL:https://youtube.com/live/9i67aR9koG0?feature=share


プログラム

【日本からの報告】

1.日本で越冬するトモエガモの増加について
  神山和夫(バードリサーチ)
 トモエガモは明治時代までは巨大な群れが越冬していた記録があるが、その後減少し、2004年1月に実施された日本・韓国合同トモエガモカウント調査で日本の総数は2,129羽になっていた。しかし、2010年代に個体数が増加し始めた。特に2010年代後半から爆発的な個体数の増加が観察され、2022/23年のトモエガモ全国調査では約17万羽が記録された。

2.宍道湖におけるトモエガモの大量飛来と採食地への飛行行動
  森茂晃(ホシザキグリーン財団)・星野由美子(島根県立三瓶自然館)
  宍道湖では2019-20年の越冬シーズンに2万羽余りのトモエガモの大量飛来を記録して以降、毎シーズン数万羽の飛来が続いている。各シーズンの数や変動には違いが見られるが、朝と夕方、日の出・日の入り前後の2回、飛行移動して丘陵林で採食する行動は共通している。丘陵林ではドングリを採食しているが、その餌資源が豊富にあることで採食時間が短く済み、1日2回飛行して採食するという日周行動が成立している可能性が考えられる。

3.石川県加賀市の片野鴨池におけるトモエガモの保護活動
  櫻井佳明(加賀市鴨池観察館)・田尻浩伸(日本野鳥の会)
 石川県加賀市にあるラムサール条約湿地・片野鴨池は周囲を岡に囲まれた面積約10haの池で、マガン、ヒシクイなどのガン類とマガモやトモエガモなどのカモ類が越冬する。近年になって国内複数か所に大群が飛来するようになる前までは、片野鴨池は国内で最も多くトモエガモが記録される湿地のひとつであった。そのため、加賀市鴨池観察館ではトモエガモの保護に力を入れてきた。これまでに渡り経路の衛星追跡や加賀市周辺の採食地の把握を行ったほか、地域の農業者と連携した保護活動も展開しており、本講演ではこれらの取り組みについて紹介する。

4.トモエガモの大群が越冬する生息地の紹介
  諫早湾-長崎県諫早市 谷口秀樹(日本野鳥の会長崎県支部)
  印旛沼-千葉県印西市 長島充(バードリサーチ会員)・神山和夫

【韓国からの報告】
5.韓国におけるトモエガモの越冬
  Hwajung Kim(National Institute for Environmental Research
  韓国におけるトモエガモの越冬個体数は、過去10年間のあいだに31万から47万の範囲である。個体数は毎年変動しているが、傾向としてはほぼ安定している。主な越冬地はGeum River(錦江)下流部とDonglim 貯水池である。個体数は12月から2月上旬に最大になる。トモエガモは夜行性で、昼間は水域のねぐらにいる。日没とともに餌場に移動し、夜明けとともにねぐらに戻る。韓国では水田の落ち籾に強く依存している。

【ロシアからの報告】
 西はタイミル半島から極東まで、ロシアの北極海沿岸で鳥類調査をしている3人の研究者に発表していただきます。温暖化によるツンドラ地帯の環境変化が鳥類に与えている影響についても時間を割いて話していただく予定です。
6.タミル半島のツンドラ・森林ツンドラにおけるトモエガモの繁殖分布と個体数変化
  Anastasia Popovkina(Lomonosov Moscow State University)
 1960-70年に起きたトモエガモの大幅な減少により、生息域の東部は分断化し、西部個体群はほぼ完全に消失した。中央シベリア北部のタイミル半島における種の分布と生息数に関する情報は非常に少ない。知られている最初の巣は1843年に半島西部の森林ツンドラで発見された。1950年代、1960年代、1990年代、2000年代には、タイミルの森林ツンドラやツンドラでトモエガモの営巣が確認されたという報告が十件程度発表されているが、その大半は巣や発見場所の正確な記述に欠けている。1988年、1992年、2009年にはタイミル南東部で3つの家族群が発見された。ツンドラ地帯の唯一の巣は、2012年にタイミル南西部のKhatanga川下流域で発見された。この場所は、トモエガモ生息域の西部(北緯72°51′)において、知られている繁殖地としては最北である。6月から8月にかけて、タイミル半島の様々な場所でトモエガモの単独、ペア、小集団が見つかる。ツンドラ地帯では、ここ数十年、トモエガモとの遭遇が頻繁になっている。この種の西側個体群の回復については慎重な推測が可能であるが、情報が少なすぎるため、現在の個体数を推定することも、個体群動態の傾向を評価することもできない。

7.サハ共和国におけるトモエガモの分布についての最新データ分析
  Evgeny Shemyakin ( Institute for Biological Problems of Cryolithozone in Yakutsk)
 トモエガモの現在の分布について解明されたことを紹介します。トモエガモはサハ共和国全体にいると記述している文献もありますが、最新の文献によれば、トモエガモは北緯62度より北で繁殖し、Aldan 高原と北東アジアの山岳地帯には繁殖期に生息していないことが分かりました。分析したデータの大半で、トモエガモの繁殖地は、Yana-Kolyma低地である可能性が高いようでした。発表されているデータと私たちの調査から、主にAldan川、 Vilyui川、Lena川、Yana川、Indigirka川、Kolyma川のr流域にある調査対象地域で、トモエガモは渡り時期に増加することが分かりました。私たちは2018年以降、トモエガモを含む水鳥の渡りルートで鳥インフルエンザ検出のためのサンプルを収集しています。

8.繁殖地の最東端における近年のトモエガモの分布
  Diana Solovyeva(Institute of Biological Problems of the North FEB RAS)
 マガダンスカヤ州、チュコトカ、カムチャッカ、サハリン島で繁殖するトモエガモに関する最新のレビューを紹介する。さらに、西チュコトカにおける我々の調査地の個体数と分布の変化を分析した。我々のデータには、2012~2023年の毎日の記録種リスト(営巣調査中に報告された全種の記録)と営巣調査結果が含まれる。トモエガモはチュコトカ領域では常に希少であったため、この地域における個体数の変動はこれまで記録されたことがなかった。しかし、トモエガモは2021年にはあらゆる場所で記録された:Kyttyk半島とAion 島、Chaun-Pucheveemデルタ、Pegtymel川デルタ、Apapelgino集落周辺。Chaun-Pucheveem川のデルタ地帯における本種の営巣は、2021年に初めて記録された。このデルタ地域におけるトモエガモの発見頻度は、過去10年間で有意に増加傾向にあった。