春と秋に日本を通過するシギ・チドリ類の多くが、オーストラリアで越冬しています。11月26日から12月2日にかけて、モニタリングサイト1000の調査員の皆さんと一緒にオーストラリアの越冬地を見学してきました。

主な訪問場所


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オーストラリアのモニタリング調査

 オーストラリア最大の野鳥保護団体であるBirds Australiaが、Shorebirds 2020というモニタリング調査を行っています。約600のサイトがあり、日本と同じようにたくさんのボランティア調査員が参加しています。日本は冬ですが南半球は季節が反対なので、「サマー・カウント」と呼ばれています。 今回のシギチドリ・ツアーは、Birds Austrariaの協力で実現しました。

 日本ではモニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査により、121ヵ所のサイトで春・秋の渡り時期と越冬期に調査が続けられていますが、同じようなモニタリング調査が韓国や台湾、オーストラリアなどで行われています。オーストラリアには日本と同じようにボランティアによる調査体制があり、約600サイトでモニタリング調査が行われています。ただし広大なオーストラリアでは調査方法が少し違っていて、例えば日本では採食場所の干潟で個体数を数えますが、オーストラリアでは干潟が広すぎてシギチドリが見つからないためか、休息場所で調査を行います。また、国内のすべての場所を毎年調査できないため、主要なサイト以外はランダムに選んで調査するという方法をとっていて、大陸全体の生息状況を把握するのは容易ではなさそうです。

日本とオーストラリア南部の渡りが確認されている主なシギ・チドリ類
   トウネン ダイゼン キョウジョシギ キアシシギ オオソリハシシギ
  ミユビシギ メダイチドリ オバシギ ソリハシシギ オオジシギ

西部下水処理場遊水池 オーストラリアでは採食地の干潟が広大なため、モニタリング調査は、このような塒でカウントすることが多い。

調査員交流会と越冬地見学

 私たちの訪問に合わせて、Birds Australiaが国内各地の調査員を集めて交流会を開いてくれました。日本の参加者からはモニタリングサイト1000の概要や日本での個体数変化の状況、調査地の紹介を行い、オーストラリアの参加者からはコオバシギの減少と中国黄海沿岸の開発との関係や、砂浜で繁殖するズグロチドリの保護活動などの発表がありました。交流会場の近くには、例年なら1万羽以上のトウネンや、数千羽のサルハマシギとウズラシギが越冬する遊水池があり、交流会の後はそこで調査実習をするはずだったのですが、大雨による増水のため道路が水没していて、シギ・チドリが多い地点には行くことができませんでした。

 メルボルンの西に車で1時間ほどの距離にあるジローンでは、オオジシギの越冬地を観察しました。オオジシギは主に日本とサハリンだけで繁殖してオーストラリアで越冬します。ジローンのベルモント公園では過去に最大250羽が確認されていますが、近年は減少傾向にあるそうです。非繁殖期のオオジシギを観察することは難しく、調査のときは公園内の湿地内を一列に並んで人が歩いて、飛び立たせたオオジシギを数えるのだそうです。

 フィリップ島ではズグロチドリが生息する砂浜を見学しました。ズグロチドリは人間活動による撹乱のために全土で個体数が減少していますが、フィリップ島では営巣地に立ち入りを禁じるロープを張ったり、市民への啓発活動を続けた成果が表れ、増加傾向にあるそうです(写真2)。
 オーストラリアは大陸のほとんどが乾燥地帯ですが、雨の多い年には「エフェメラル・ウェットランド」という一時的な湿地ができ、そこにシギ・チドリが集まるために生息地の分散が起きます。今年は数十年ぶりという雨の多い年であったため、例年はシギ・チドリが集中しているはずのビクトリア州南部でも大きな群を見ることができませんでした。せっかく見学に行った私たちは少し残念でしたが、シギ・チドリにとってはよいことです。越冬地の条件が良くなったことで、来年の春にはいつもの年より多くのシギ・チドリが日本にやってくるかもしれません。

調査員交流会 行徳野鳥保護区の説明をする鈴木裕子さん
オオジシギが越冬しているベルモント公園 ズグロチドリとヒナのためのシェルター
(Birds Australia提供)

ハシボソミズナギドリ繁殖地

さて、旅も後半にさしかかったある日の午後、フィリップ島のスワンレイクに行ったときのことです。木道沿いの草むらにたくさんの穴が掘られているのを見つけました。前日の夕暮れにハシボソミズナギドリの大群が海から帰ってくる光景を目撃していたので、「ここがコロニーだ!」と思って夕方同じ場所に戻ってきてみると、少なくとも10万羽はいるだろうと思われるハシボソミズナギドリの帰巣を見ることができました。ハシボソミズナギドリはオーストラリア南部で繁殖し、北半球の夏に日本近海に渡ってきます。

スワンレイクの木道。周囲は砂質の草地で、
多数の営巣穴がある。
ハシボソミズナギドリの帰巣のようす。
(撮影:佐藤ひろみ)


フライウエイ全体での個体数把握が必要

オーストラリアでも多くのシギ・チドリ類が減少傾向を示しており、中国や韓国の黄海沿岸で進められている干潟の埋立が影響しているのではないかと言われています。また過去には日本の干潟の埋立でも減少しているでしょう。シギ・チドリ類の生息数を把握し、渡り経路全体の生息地を維持していくためには国際的な連携が必要です。今回の旅は日本とオーストラリアのシギ・チドリ調査関係者が交流するための第一歩ですが、これをきっかけに、今後の協力関係を築いていきたいと思っています。


訪問サイトのモニタリング調査記録

Birds Australiaのモニタリング調査報告書に掲載された昨年と一昨年の調査結果です。

※ウエスタン・ポートはフィリップ島を含む湾全体の複数サイトの調査結果