バードリサーチ ニュース

2015年4月号 (Vol.12 No.4)

【 もくじ 】

――――――――――――――――――――――――――――――
1.◆活動報告◆ 音でバードストライクを防げる?
2.◆参加募集◆ コアジサシ営巣調査参加者募集!
3.◆参加報告◆ East Asia Land Bird Monitoring Workshop
4.◆参加報告◆ 日本生態学会鹿児島大会
5.◆生態図鑑◆ オーストンオオアカゲラ
6.◆お知らせ◆ 新人スタッフ紹介
7.◆図書紹介◆ ハトはなぜ首を振って歩くのか
――――――――――――――――――――――――――――――

このページは,ニュースレターの概要版です.
普通会員もしくは賛助会員に入会いただければ
正式版を閲覧することができます.入会をお待ちしております.

【 概 要 】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
1.◆活動報告◆ 音でバードストライクを防げる?
            ワシの音に対する反応を試験
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 北海道では風車にオジロワシが衝突するバードストライクが問題となっています.この問題を軽減するための方策の一つとして,画像認識やレーダ認識などでワシが風車に接近するのを感知し,ワシが近づいた時に音を出して,風車から追い払うか風車に気づかせる方法が考えられます.
 そこで昨年に続き,今年も根室の福田佳弘さんと高田令子さんに協力していただいて,環境省の「海ワシ類における風力発電施設に係るバードストライク防止策検討委託業務」のなかでワシの音に対する反応を実験しました.その結果をご報告します.

○ワシは逃げはしないが,注目はした
 ワシの反応をみるために,運動会のスタートに使うピストルを使うことにしました.2月23日と24日,根室半島のオジロワシやオオワシがよく飛ぶ崖の上に陣取り,彼らが近づいてきたらピストルを鳴らす実験をしました.音に驚いて引き返すことは稀でしたが,多くは羽ばたいて上昇したり,スピードを落としたりしました.また,その際には音の方向を見る行動が観察されました.
 何度かワシが反応しないケースがありましたが,これらはワシの後方から音を鳴らした場合でした.ワシの耳の構造上,後ろの音はあまり聞こえないのか,それとも後ろで起きていることは気にしないのか.なぜなのでしょうか?
【植田睦之】

◆その他掲載記事
 ・バードストライクを減らすために

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2.◆参加募集◆ コアジサシ営巣調査参加者募集!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 大都会東京の,コンクリートの施設の屋上に,絶滅危惧種コアジサシの集団営巣地があります.この貴重な営巣地のコアジサシを守るため,ボランティア調査員の募集がありますので,お知らせします.ボランティア調査員として実際に調査に参加すると,コアジサシの営巣環境やちょっと変わった繁殖生態についても学ぶことができると思います.都心でたくましく生きる絶滅危惧種を間近に感じることができる良い機会ですので,参加してみてはいかがでしょうか.
 コアジサシの集団営巣地があるのは,東京都大田区,森ヶ崎水再生センターの屋上です.2001年にコアジサシの営巣が確認されてから,NPO法人リトルターン・プロジェクト(以下LTP)が,屋上で営巣するコアジサシの保全活動を行っており,毎年,営巣調査参加者を募集しています.
 営巣調査を通して得られた知見は,よりよい営巣環境の整備に活かされます.例えば,コアジサシは白い地面に好んで営巣する傾向が見られたため,営巣地に白い貝殻をまいたところ,貝殻をまいた地面でより多くのコアジサシが営巣しました.また卵やヒナの天敵であるカラス対策等も行っています.10年以上にわたるLTPの活動が実を結び,2014年の調査では810巣,孵化したヒナの数は約1400羽となりました.昨年の繁殖の盛況振りから,今年もたくさんのコアジサシが営巣してくれるだろうと期待されています.
【奴賀俊光】

■■■ リトルターン・プロジェクト コアジサシ営巣調査参加方法 ■■■

申し込み方法
 参加を希望される方は,LTPのブログに申し込み方法や詳細情報が掲載されていますので,下記URLのブログをご覧の上,掲載の方法でお申し込み下さい.
http://d.hatena.ne.jp/littletern/20150507

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
3.◆参加報告◆ East Asia Land Bird Monitoring Workshopに参加してきました
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 2015年3月25〜26日にBirdLifeと韓国の自然環境部局主催で行なわれた東アジアの陸鳥モニタリングについてのワークショップに参加してきました.
 水鳥についてはアジア水鳥センサスのようなモニタリングや渡り鳥フライウェイ事業による情報交換の場などがありますが,陸鳥についてはそういったものがありません.そこで,今回,ロシア,中国,韓国,日本の関係者が集まり,ヨーロッパでのモニタリングのとりまとめ役をしているRSPBのGregoryさんにもアドバイザーとして参加してもらい,情報交換と今後についての検討が行なわれました.
 各国からの報告で共通していたのはシマアオジの減少でした.特に,ロシア西部では絶滅してしまったそうです.もともと東アジアの鳥だったのが,西へ分布を広げていった鳥なので,全体の個体数の減少とともに,分布の端では絶滅してしまったのでしょうか.同様の分布パターンをもつカシラダカもロシア西部で急激に減少しているそうです.日本の標識調査でも標識数が急減しているので,今後の動向に注目し,減少の原因などを明らかにしていく必要がありそうです.また,日本では最近スズメの減少が話題になりましたが,スズメは韓国でも減少しているという報告がありました.日本との状況の比較などから減少の主原因を明らかにできるかもしれません.こういった点も各国で情報交流をしていく利点だと思います.
【植田睦之】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
4.◆参加報告◆ 日本生態学会鹿児島大会に参加してきました
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 3月18〜22日に鹿児島大学で開催された日本生態学会大会に参加してきました.3月20日午前に,環境省生物多様性センターと大規模長期生態学専門委員会の企画集会「モニタリングサイト1000の10年の成果から分かったこと〜大規模長期生態系モニタリングの継続と取得データの活用を進めるためには〜」が開かれ,バードリサーチが関わっているガンカモ類,シギ・チドリ類の調査について,10年目の成果や活動状況を発表しました.
 モニタリングサイト1000の調査は,研究者による調査と市民が協力する調査の大きく二つに分けられます.例えば,森林・草原調査などは,大学や研究機関と連携し,詳細な分析をおこない多くの研究成果を挙げていました.一方,市民ネットワークに重点を置いた里地調査は,自然環境だけでなく里山の文化や人のかかわり合いも含めた記録を残そうとしており,保全への活用を見据えた調査を継続しています.多彩な人がかかわり,さまざまなアイデアを加えながら展開していけることが市民調査の利点だと思いました.市民調査と研究者がおこなう調査,それぞれの特徴を活かしながら,あと90年,自然環境の変化を見守り続けていければと思います.
【守屋年史】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
5.◆生態図鑑◆ オーストンオオアカゲラ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
○英名:Amami Woodpecker
 学名:Dendrocopos (leucotos) owstoni
○分類 キツツキ目キツツキ科

○鳴き声
 キョッの声を頻繁に発する.同種他個体との接触で緊張関係の状態にあるときには,キュキュキュキュ,あるいはキュトキュトキュトなどと聞こえる甲高い連続した声を発する.また連続的に叩いて音を発するドラミングを行う.採食のためではなく,弱くゆっくりと単発的に叩いて音を出すこともある.成長した巣内ビナは大声を発する.巣内ビナの声は緊張時の成鳥の声に似るがやや低音.

○分布
 奄美大島のみで繁殖する.最短で約1km離れている加計呂麻島での繁殖記録はなく、ごくまれに食痕や観察記録がある.オオアカゲラ類はアカゲラより南の,主に広葉樹林帯に広く分布している.

○巣
 主に照葉樹天然林で繁殖し,比較的心材腐朽木も多いと考えられるスダジイの壮齢〜老齢木の幹に,自ら穴を穿って営巣する例が多い.天然林内のほか,林縁部や民家の庭木などでも営巣するが,成長した巣内ビナは大きな声を頻繁に出すため発見されやすく,開けた場所の巣立ちビナはハシブトガラスやノネコ等に捕食されやすいと考えられる.

○食性と採食行動
 直径10cm程度以上の,比較的太い枯れた枝や幹で採食することが多い.くちばしで叩いて採食木を砕き,崩して採食する.巣のヒナへの給餌と採食行動の観察により,カミキリムシやチョウ等の幼虫やゴキブリ,モリバッタ等の昆虫類,オオゲジやムカデなどのムカデ類,クモ類,タブノキやタラノキ等の植物の種子,果実,タンカン等を食べることが確認されている.

○独立種!
 オーストンオオアカゲラは,Ogawa(1905)によってPicus owstoniとして記載された後,オオアカゲラの1亜種と再定義されたが,2014年に発行された世界の鳥のハンドブック別冊のチェックリストで,他個体群とは羽色等の形態差が不連続に大きいことを重視して独立種と定義する考え方が採用された.
 日本産3亜種,台湾産1亜種と,オーストンオオアカゲラの形態を標本を用いて比較したところ,オーストンオオアカゲラは,翼長と嘴長の比では本州以南,翼長とふ蹠長の比では台湾,翼長と尾長の比では北海道のオオアカゲラとの間で有意差がなかった.自然翼長,尾長とふ蹠長は統計的に有意に最も長く,嘴は北海道よりも有意に短く,本州〜九州と同様だった.台湾産亜種は,いずれも有意に最小である.キツツキ類の嘴は太く短い方が固い木を掘るのに適し,尾は相対的に短い方がつつき力が出るなどの説もあり,こうした形態特性はそれぞれの採食生態を反映していると考えられる.
【石田健 横瀬町在住】

◆その他掲載記事
 ・露出嘴峰長,ふ蹠長,自然翼長,尾長,体重
 ・羽色
 ・生息環境
 ・生息密度
 ・繁殖システム
 ・その他(生活史)
 ・松枯病の蔓延
 ・森林分断が固定

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
6.◆お知らせ◆ 新人スタッフ紹介
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆奴賀俊光
 大学では鳥類を専門とする研究室ではなかったのですが,ミユビシギの採食生態,イソヒヨドリの繁殖生態の研究や,海岸や水田の鳥類相調査等を行ってきました.社会人になってからは,仕事の合間にNPO法人リトルターン・プロジェクトでコアジサシの保全活動を行ってきました.仕事では陸域の建設コンサルタント会社で3年,海域の建設コンサルタント会社で5年働いてきましたが,もっと鳥類に関係する仕事に就きたいと思い,今月からバードリサーチに加えていただきました.
 コアジサシやシロチドリ,ミユビシギなどの生息環境である砂浜海岸は,森林や干潟等よりも人気が無く(?),知見も少ない環境です.そのような環境をフィールドとしてきた経験を活かし,砂浜という環境の情報収集・発信,希少種の保全にかかわる仕事ができればと思っています.

◆小島みずき(インターン)
 小学生の頃に鳥や自然を見ることの面白さに魅了され,それからずっと鳥を追いかけてきました.大学で畜産学や野生動物管理について学ぶかたわら,博物館で鳥の剥製や標本を作ったり,休日は野鳥の会東京主催のヤング探鳥会の解説員をしています.そんな中で一部の鳥が減少していることや一方で増えすぎて人との軋轢ができていることに気付き,人と鳥が共存できるような社会を目指したいと思いバードリサーチへ来ました.
 鳥は特に野外経験を積んでいなくても気軽に見られるという点もあり,ボランティアでも様々な調査に参加しやすいです.鳥の調査や研究のプロとは違い,アマチュアで鳥を見て楽しんでいる人たち(大学のサークルで鳥を見始めた人,近所で鳥を見ている主婦の方々など)を巻き込んで活動していきたいと思っています.よろしくお願いします!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
7.◆図書紹介◆ ハトはなぜ首を振って歩くのか
    藤田祐樹 著/岩波書店 定価 1,200 円(税別)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 公園に出かけて,ベンチに腰かけて,ただただぼーっとする,という機会は意外とあるようでないのですが,一度やってみてください.目の前を通り過ぎるドバトが目に入ってくると思います.彼らの動きを見ていると,なぜか首を前後に動かしながら歩いています.歩く速度があがると,首を振る速度も速くなります.ちょっと不思議な行動です.この行動に注目したのが藤田祐樹さんです.斬新な視点で展開される藤田さんの研究はとても面白く,バードリサーチニュース2006年3月号にも記事を寄せていただきました.その藤田さんの研究が,一冊の本になりました.
 本書は,人の歩行と鳥の歩行の違いから,首を振って歩く鳥とそうでない鳥がいること,そしてなぜそのような違いが生じるのかなどについて,鳥の体の仕組みや生態の知識を織り交ぜながら推論を展開し,謎を解いていく探偵小説のように書かれており,テンポよく話が進んでいきます.藤田さんの文章はとても読みやすく,皆さんにもあるような体験を例え話として挟みながら,わかりやすく面白く解説されているので,多分野に渡る知識がすっと頭に入ってきます.じっくり鳥を観察する,調べることの楽しさを感じることができる1冊です.疲れた頭のリフレッシュにも,お薦めです.             
【高木憲太郎】

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
バードリサーチニュース Vol.12 No.4  2015年4月27日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ

〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9
TEL & FAX 042-401-8661
発行者: 植田睦之       編集者: 青山夕貴子・高木憲太郎
E-mail:  URL: http://www.bird-research.jp/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

もくじに戻る↑