バードリサーチ ニュース
2006年7月号 (Vol.3 No.7)
【 もくじ 】
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1.◆活動報告◆ カワウの季節移動を追う 衛星追跡調査受託
2.◆活動報告◆ 環境省委託 レーダーを用いた渡り鳥調査手法開発
3.◆レポート◆ 鳥の世界も鬼ばかり?〜ツバメの子殺し〜
4.◆生態図鑑◆ コアジサシ
5.◆研究誌から◆ 寒波がガンカモ類の個体数変動に影響
6.◆海外文献情報◆ 中国語文献 福井和二さんによる翻訳
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【 概 要 】
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1.◆活動報告◆ カワウの季節移動を追う 衛星追跡調査受託
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○研究の目的
今年度,カワウの季節移動を明らかにするために,衛星追跡調査をするという研究事業を環境省から受託することになりましたので,ご紹介します.
関東では,日本野鳥の会とバードリサーチが行なってきたねぐらでの個体数調査から,夏は東京湾沿岸に集中し,冬は内陸に広く広がって生息しているということがわかってきています.また,中部近畿でも,各府県などが実施している調査から,琵琶湖の周辺では夏に個体数が多く,他の地域では冬に個体数が多いという傾向が見えてきています.関東では東京湾を中心に,中部近畿では琵琶湖を中心にカワウが季節的に移動しているのではないかと,想像が膨らみます.しかし,個体が実際に移動しているという確かな証拠は得られていません.特に中部近畿は,琵琶湖の他にもカワウが夏に集まっても良さそうな,伊勢三河湾や大阪湾などがあります.その中でカワウがどのように移動しているのかを明らかにすること,そして,広域におけるカワウの保護管理に役立てることがこの研究の目的です.
○調査の方法
カワウの個体の追跡には,ホウロクシギやサシバなどでも使われているアルゴスシステム用の送信機を使い,1年間の追跡ができるように設定しています.この送信機を関東と中部近畿のコロニーで捕獲したカワウの成鳥に装着して放鳥します.
捕獲は全部で12羽を予定していて,関東では第六台場(東京都)と行徳鳥獣保護区(千葉県),中部近畿では竹生島(滋賀県)と弥富野鳥園(愛知県)で行ないます.
○捕獲の苦労
既に半分のコロニーで捕獲を実施していて,竹生島で5羽,第六台場で2羽のカワウに送信機を装着しています.竹生島では,地上巣にトラップを仕掛けて,戻ってくる親鳥を捕獲するという方法を用いました.最初の2羽は設置後すぐに捕獲できたのですが,その後はなかなか捕まらなくなってしまいました.カワウはぼくらの行動を観察していて,どこが危険なのか良くわかっているようでした.驚いたことに,帰ってきた親鳥が,巣には戻らずに,巣の隣に降りてそこからヒナに餌をやる,なんてことまでありました.
そんな経験があったので,第六台場での捕獲の時は,腹をくくって挑んだのですが,こちらはかすみ網であっさり捕獲できてしまい,拍子抜けしました.
捕獲したカワウが,季節移動の時期に貴重なデータを届けてくれることを今から心待ちにしています.請負事業ですので,調査結果を途中でお知らせすることはできませんが,来春にはこのニュースレターでも結果をご報告できると思います.【高木憲太郎】
■参考文献
特定鳥獣保護管理計画技術マニュアル(カワウ編)
http://www.env.go.jp/nature/report/h17-03/index.html
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2.◆活動報告◆ 環境省委託 レーダーを用いた渡り鳥調査手法開発
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○調査の趣旨
バードリサーチでは,環境省からの委託を受け,気象庁の協力のもと,気象庁のウィンドプロファイラというレーダーに映る「渡り鳥エコー」を使って渡り鳥の調査ができないかを検討する調査を行ないました.
2005年の10月号でも少しご紹介しましたが,風を探知するウィンドプロファイラというレーダーに,春や秋の夜間に正体不明のエコー(渡り鳥エコー)が映り,これがもし渡り鳥からのエコーだとすると,その情報をもとに渡り鳥の調査ができるのではないか,というのが調査の趣旨です.その調査結果をお知らせします.
○調査結果
調査は,2005年10月に北海道室蘭にあるレーダーサイトのそばで,渡り鳥の通過状況を鳴き声や目視などで調べ,それとレーダーの結果を比べるという方法で実施しました.「渡り鳥エコー」は夜に多く出ることがわかっていたので,夜渡る渡り鳥を対象としました.夜は目視での調査が困難なので,1)渡っていく時に発する鳴き声を基にした調査(鳴き声調査),2)月面を横切る鳥の調査(月面調査),3)早朝の目視による調査(目視調査)を行ないました.月面調査は月を連続的にビデオ撮影し,月面を横切っていく鳥を数えるというものです.うまく月面を通るものかどうか半信半疑でしたが,家でテレビに映して見てみると,意外に多くの鳥が通過しているのがわかりました(動画:mpeg 753KB:http://www.bird-research.jp/1_katsudo/rader/moonwatch.mpg).
これらの調査結果とウィンドプロファイラの結果を比べてみました.鳴き声調査と月面調査の結果は,3日のうち2日はかなり一致していたのですが,残りの1日はあまり一致しませんでした.ただ,早朝の目視調査の結果は3日ともウィンドプロファイラの結果と一致していました.鳴き声調査でも月面調査でも比較的良くレーダーの結果と一致しており,最も把握度の高い早朝目視調査がしっかり一致したことから,「渡り鳥エコー」は渡り鳥の移動を示している可能性が高くなってきました.
今年度の調査については決っていないのですが,これらの検証をするとともに,「渡り鳥エコー」を使って渡り鳥の状況を記載するようなことができれば,と期待しています.【植田睦之】
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3.◆レポート◆ 鳥の世界も鬼ばかり?〜ツバメの子殺し〜
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○ツバメかんさつ全国ネットワークから
ツバメかんさつ全国ネットワークでは,ツバメの子育てについての観察記録を蓄積しています.そのほとんどの巣は,調査参加者の自宅に作られたものなので,頻繁に観察していないと見つからないような珍しい行動も記録されています.
今年からツバメの質問コーナーを作ったところ,「ツバメの卵やヒナが巣から落ちているのだがどうしてか」 という問い合わせが多いことに気がつきました.さらに,成鳥が卵やヒナを落としているのを見た,という具体的な報告があり,子殺しかもしれないと返事したところ,ビデオで撮影していた方が,子殺しの前後でオスが入れ替わっている証拠画像を送ってくださいました.
○子殺し,という繁殖戦略
繁殖戦略としてのオスによる子殺しとは,配偶者を得られなかったオスが繁殖をしているメスに自分の子供を産ませようとして,そのメスの子を殺す行動を言います.子供を失ったメスは再び発情するため,子殺しオスはすぐにそのメスと繁殖することができます.
○ツバメの子殺し
ツバメの子殺しは,繁殖つがいのオスが死亡した後に入ってきた新たなオスにより行われることもあれば,繁殖つがいのオスがいる巣で行われることもあります.研究事例によっては子殺しがヒナの死因の32.1%に達することもあり,ヒナの主な死亡原因になっている場所もあるようです.しかし,ツバメの子殺しはどの場所でも頻繁に起きるわけではなく,ある条件の時に起きるようです.
条件のひとつは,その場所の繁殖個体の性比がオスに偏っていることです.大きなコロニーほど未婚オスの数が多く,それに比例して子殺しが多くなります.さらに,ツバメのメスが好まない尾羽の短いオスが多い年は子殺しが多く,これは尾羽の長いオスが短いオスの子を殺しているということのようです.それからツバメは,繁殖シーズン中に2〜3回ヒナを育てるのですが,子殺しが起きるのは1回目の育雛の時だけだそうです.子殺しをして繁殖をやり直すと時間がかかるので,繁殖シーズンの前半でなければ子殺しをしても,繁殖成功度をあげられないためと思われます.
子殺しは捕食と見分けがつきにくいため観察が難しい行動ですが,それができたのは,身近にあるツバメの巣を観察するという調査ならではのことです.今年の繁殖シーズン終了後,調査に参加してくださっている1000名を超えるボランティアの皆さんにアンケートを行い,子殺しの頻度,時期,巣の密度などを調べてみようと考えています.
【神山和夫 バードリサーチ嘱託研究員/ツバメかんさつ全国ネットワーク事務局】
■ツバメかんさつ全国ネットワーク
http://www.tsubame-map.jp/
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4.◆生態図鑑◆ コアジサシ
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○英名:Little Tern 学名:Sterna albifrons
○分類:チドリ目 カモメ科
○分布:
ユーラシア大陸からオセアニアにかけて,世界中に広く分布し,7〜9亜種に分類されている.10年ほど前に,アメリカ大陸の亜種が別種アメリカコアジサシとなった.日本で見られる亜種S. a. sinensis は,東南アジア,韓国,日本などで繁殖し,オーストラリア,ニュージーランドなどで越冬すると言われている.日本には,夏鳥として本州以南に渡来し,繁殖する.ここ十年の繁殖北限は秋田県秋田市.
○ディスプレイ・ペアリング:
オスは魚をくわえてメスに近づき(写真2),羽を少し広げ,嘴を上に向けメスの周りを回ったり,また魚をくわえたオスを1〜2羽のメスが追いかける空中でのディスプレイなどがある.オスが採ってきた魚をメスが受け取るとペアが成立するが,オスはその後も営巣地への定着時まではもちろん,抱卵前期まで求愛給餌を続ける.また,メスがペア以外のオスから餌をとるためのつがい外交尾が知られている(鳥羽1989).
○コアジサシの食卓事情
魚類が主要な餌であるが,海外の文献では水生昆虫の記載がある.採食は,ゆっくりとホバリングしながら探索し,魚を見つけると狙いを定めて急降下し,水中に飛び込んで捕らえる.干潟などの浅い所では,水面を掬うように飛ぶこともある.著者は2004〜2005年に,コアジサシの食物条件に関する調査を東京湾岸で行なった.目視によるコアジサシの採食範囲調査では,営巣地周辺の6km以内を主に利用していることがわかった.育雛期は,魚を捕らえると飲み込むことなく嘴に1匹ずつくわえて,そのまま営巣地まで一直線に運んでいく.
親鳥はヒナの孵化後3日ほどまでは,シラスなど2cmほどの小さな魚を,その後は成長に合わせて魚のサイズが大きくなり,孵化後3週間にもなると8cm弱の魚を給餌していた.給餌頻度は1時間あたり3回以下であることが多いが,1時間あたり12回もの給餌が観察されたこともあった.
【松岡好美 東京大学農学生命科学研究科 研究生】
◆その他掲載記事
・全長,翼長,尾長,露出嘴峰長,ふ蹠長,体重
・羽色,鳴き声
・生息環境
・繁殖システム
・巣,卵
・営巣環境・コロニーサイズ
・抱卵・育雛期間
・コアジサシの保護活動の現状と今後の課題
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5.◆研究誌から◆ 寒波がガンカモ類の個体数変動に影響
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この冬は,豪雪が社会的な話題として連日取り上げられ,普段見られないところにハクチョウ類が出現したことがバーダーのあいだでも話題になりました.ぼくは見ることはできませんでしたが,うちの事務所のすぐそばの浅川や多摩川でもハクチョウが見られたそうです.
この寒波がガンカモ類に与えた影響についてまとめた論文が,研究誌に掲載されました.嶋田さんたちは,宮城県伊豆沼のオオハクチョウ,マガン,カモ類の個体数を調べているのですが,平年並みだった2004/05年の冬と寒く雪の多かった2005/06年の冬の間で,個体数を比べました.すると,マガンでは大きな違いは見られなかったのですが,オオハクチョウとカモ類ではシーズン中の個体数の変化に違いが見られました.オオハクチョウでは2004/05年は越冬個体数に越冬期を通して変動がなかったのに対し,2005/06年は寒くなるにつれて個体数が増加していました.また,カモ類では,2005/06年は2004/05年よりも早く,11月下旬から個体数が増加していました.2005/06年は12月の低温と積雪が顕著だったので,北方で越冬できなくなった鳥が南下してきたために個体数が増加したのですが,マガンは,もともとほとんどが伊豆沼周辺で越冬しているので,変化がなかったのではないか,と嶋田さんたちは考えています.【植田睦之】
嶋田哲郎・植田健稔 2005/06年の寒波がガンカモ類の個体数変動に与えた影響 Bird Research 2: A11-A17
http://www.bird-research.jp/1_kenkyu/journal_vol02.html
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6.◆海外文献情報◆ 中国語文献 福井和二さんによる翻訳
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以前,中国の青海湖でのカワウのバンディングについて書かれたホームページがあったのですが,具体的なところはチンプンカンプンでした.そこで,福井和二さんに頼んで翻訳してもらったことがあります.
福井さんは,中国語がばりばり読めちゃうすごい方です.しかも,ライフワークとして,これまでに135本もの中国語の鳥類の論文を翻訳しています.最近のものでは,ハクセキレイ(亜種ホオジロハクセキレイ Motacilla alba leucopsis)の繁殖生態を事細かに調べた論文を訳されています.抱卵や抱雛の時間や給餌回数などがまとめられているので,日本で調査して比較してみるのも面白いかもしれません.
福井さんもこのまま死蔵させてしまうのも勿体無いので,必要としている方にはぜひ提供したい,と言ってくださっています.そこで,今回,これまでに翻訳された中国語の文献のリストをバードリサーチのホームページに掲載しました.リストの中から読んでみたい文献が見つかった時は,訳者の福井さんに直接問い合わせてください.原文と訳文を郵送で送っていただけると思います.【高木憲太郎】
■福井和二さんによる中国語文献の翻訳リストのページ
http://www.bird-research.jp/1_newsletter/chinese.html
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バードリサーチニュース Vol.3 No.7 2006年7月14日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ
〒191-0032 東京都日野市三沢1−26−9 森美荘II−202
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