青森県津軽地域における繁殖期のチゴハヤブサの採食内容

Bird Research 17: A1-A9



 青森県津軽地域で繁殖したチゴハヤブサについて,2018年の5巣と2019年の7巣を対象に,食痕とペリットの内容分析から採食内容を推定した.また,2019年には1巣について,巣内育雛期と巣立期の動画撮影から給餌内容を推定した.食痕から推定された食物は,鳥類21科32種,哺乳類1科3種,昆虫類14科24種で,鳥類と昆虫類が大部分を占めた.鳥類ではカワラヒワ(鳥類中18.3%),ツバメ(同17.9%),コムクドリ(同15.3%),スズメ(同14.1%)が多く,昆虫類ではセミ科(昆虫類中52.8%)とトンボ目(同44.1%)が多かった.また,哺乳類はすべてコウモリ類だった.動画撮影で推定されたヒナへの給餌では,昆虫類(145個体)が鳥類(23個体)を大きく上回った.これらの結果から,津軽地域のチゴハヤブサは営巣地周辺に多く生息する鳥類や昆虫類を主に利用していることが示唆された.

キーワード: 繁殖生態,チゴハヤブサ,給餌頻度,食痕,ペリット,動画撮影




鳥類は電柱および電線にどのように止まるのか

Bird Research 17: A11-A19

三上 修・三上かつら・森本 元・上野裕介

 都市に生息する鳥類は,大量にある電柱電線を足場として利用している.その止まり方にパターンがあるかどうかを国内7都市で調査した.その結果,次のことが明らかになった.(1) 止まる場所全体に対する電柱および電線を利用する割合は,種によって違っていた.(2) 鳥類は,越冬期よりも繁殖期に,電柱および電線に頻繁に止まっていた.(3) 体重が大きい鳥種ほど,電線よりも電柱に止まる傾向があり,また,電線に止まる場合でも,電柱に近い部分に止まっていた.(4) 多くの鳥種が,最上段の線によく止まっていた.

キーワード: 都市鳥,道路生態学,人工構造物,配電設備




カラス2種の生息環境,利用空間の高さ,および行動個体数の違い

Bird Research 17: A21-A29

廣部博之・藤岡健人・三上 修

 ハシブトガラスとハシボソガラスは様々な環境で生息している.この2種の生息環境については,いくつか研究があるが必ずしも統一的な結果になっていない.そこで,函館市の都市部を中心に2種の生息環境,利用している空間の高さ,行動個体数について調査をした.その結果,ハシボソガラスは農耕地帯に,ハシブトガラスは山沿いに多い傾向が見られたが,2種の混在度合いは,環境により異なっていた.また,ハシブトガラスは発見時に複数でいることが多く,高い空間を利用していた.

キーワード: 環境選好性,都市鳥,普通種




津軽海峡における海鳥の密度の季節変化

Bird Research 17: A31-A44

倉沢康大・平田和彦

 津軽海峡における海鳥の密度とその季節変化を明らかにするために,2006-2010年に津軽海峡で,函館(北海道)と大間(青森県)を結ぶ旅客フェリーからの海上センサスを行なった.周年にわたる計151回の調査の結果,11科51種の海鳥が記録された.渡り途中のミズナギドリ科(ハシボソミズナギドリ,ハイイロミズナギドリ)やアカエリヒレアシシギが飛来する4-5月に,海鳥の密度が最も高かった.11-12月には種数が最も多くなり,越冬地への南下中と考えらえるカモメ科やウミスズメ科が多く記録された.本研究により,津軽海峡は沿岸性から外洋性まで多様な海鳥が生息し,種によって本海域を利用する時期や密度が異なることがわかった.

キーワード: ベースラインデータ,海上センサス,モニタリング,海鳥の分布,津軽海峡




ゴルフ場における害虫駆除者として,スズメを誘致するために効果的な
巣箱の入口穴径と設置高さ

Bird Research 17: A45-A52

佐藤晴香・高島 鼓・三上 修

 ゴルフ場では一般的に害虫駆除のために農薬が使われている.人体への被害や生態系への悪影響への懸念から,農薬の使用を抑えるための方法として,スズメ等の昆虫を食べる鳥類による生物防除がある.スズメによって効果的に行うためには,スズメが選好する巣箱を明らかにし,目的とするゴルフ場にスズメを誘致する必要がある.そこで本研究では,峯岸(2011)のデータを使用し,以下の2つを明らかにすることを目的とした.1)スズメは,どんな大きさの穴径,および高さの巣箱を選んで使用しているか,2)スズメが選んだ巣箱の穴径と高さは,繁殖に適した穴径と高さと同じか,それともずれているか.その結果,スズメは30.82mmの穴径の巣箱を好み,その穴径は,高い繁殖成功をもたらす穴径とほぼ同じであった.また架設された範囲内では巣箱の高さは,スズメの巣箱使用割合に影響を与えていないこと,そして繁殖成功にも大きな影響を与えていないことが推測された.これらのことから,ゴルフ場にスズメを誘致する際には,約140cmから約370cmのあいだであれば巣箱を架ける高さは考慮する必要がなく,巣箱の穴径については30-31mmとすべきと結論づけた.

キーワード: ベ害虫駆除,スズメ,巣箱の穴径,巣箱の地上からの高さ,生物防除




瀬戸内海南縁部におけるオオミズナギドリの新繁殖地

Bird Research 17: S1-S8


関 伸一・安田雅俊

 瀬戸内海の南縁にあたる豊予海峡の高島(大分県)でオオミズナギドリ Calonectris leucomelas の新たな集団繁殖地を発見した.内部に土砂の堆積がなく過去数年以内に利用された可能性のある巣穴の確認数は122個,既知の巣穴の分布範囲の面積は0.28haであった.北側には瀬戸内海唯一の繁殖地である宇和島,南側の豊後水道には沖黒島,小地島がいずれもほぼ等距離に位置しており,高島はこの地域の小規模繁殖地の存続と遺伝子流動において重要となるかもしれない.繁殖地に設置した自動撮影カメラでは巣穴に出入りするオオミズナギドリとともに,捕食者となる可能性のあるクマネズミ属の種 Rattus sp.,特定外来生物であるクリハラリス Callosciurus erythraeus,ハシブトガラス Corvus macrorhynchos が撮影された.高島のクリハラリスは継続的な捕獲により個体数が減少傾向にあるが,その影響でクリハラリスと食物の一部が競合するクマネズミ属の種が増加する可能性があり,今後の経過をモニタリングする必要があるだろう.

キーワード: オオミズナギドリ Calonectris leucomelas,新たな繁殖地, 九州東岸, 外来捕食者




   宮城県仙台市における11月のツバメの繁殖

Bird Research 17: S9-S11


深瀬 徹

 2020年11月に宮城県仙台市でツバメの繁殖が観察された.近年秋期のツバメの繁殖が記録されるようになったが,この記録は現時点で最北の秋期の繁殖記録と思われる.

キーワード: 秋期繁殖,ツバメ




 
   九州北部におけるシマクイナの越冬を示唆する記録

Bird Research 17: S13-S18


北沢宗大・吉岡俊朗

 近年の国内におけるシマクイナの冬期の分布状況は関東平野を除き明らかになっていない.そこで本研究では,岡山県,徳島県,香川県,佐賀県,長崎県内の10地点において,プレイバック法をもちいて本種の越冬状況を調査した.調査は2021年の1月から2月にかけて行なった.調査した10地点のうち,佐賀県と長崎県の2地点にて本種を複数回確認した.特に長崎県の調査地点では,4個体を確認した.本研究により,シマクイナが九州北部で越冬している可能性が示唆された.

キーワード: 佐賀県,長崎県,越冬記録,耕作放棄地,プレイバック法




 
「鳥獣関係統計」で収集された全国の傷病鳥の保護数のデータ

Bird Research 17: R1-R3


植田睦之

 環境省は,「鳥獣関係統計」として,全国の都道府県で保護された傷病鳥の情報を公開している。その情報は,日本の鳥の状況を把握するためにも有用な情報と考えられるので,ここにデータベースとして公開した.

データダウンロード: http://www.bird-research.jp/appendix/br17/17r01.html

キーワード: 傷病鳥,鳥獣関係統計,オオタカ,ミサゴ,サシバ




全国鳥類繁殖分布調査で収集された20kmメッシュの鳥類の繁殖分布のデータ

Bird Research 17: R5-R9


植田睦之・植村慎吾・葉山政治・荒 哲平・高川晋一・川路則友・梶田 学・仲村 昇・田畑早紀・内山優奈

 全国鳥類繁殖分布調査はこれまでに環境省の「自然環境保全基礎調査」の一環として,1974-1978年,1997-2002年に行なわれた調査の3回目の調査として実施したものである.今回は6団体による組織「鳥類繁殖分布調査会」を構成し,2016-2021年に実施した.標準地域メッシュ第2次地域区画 4つを結合した約20km四方のメッシュに,概ね 2コースの調査地を配置し,現地調査を行なうととともに,文献情報や野鳥観察記録を収集し,20kmメッシュごとの鳥類の生息状況をとりまとめた.この情報は,日本の鳥類の分布状況の評価等さまざまな解析に有用な情報と考えられるため,ここに公開する.

データダウンロード: http://www.biodic.go.jp/kiso/do_kiso4_bird_f.html#mainText

キーワード: 全国鳥類繁殖分布調査,分布図,メッシュ




東京都鳥類繁殖分布調査で収集された5kmメッシュの鳥類の繁殖分布のデータ

Bird Research 17: R11-R14


植田睦之・佐藤 望・葉山政治

 東京都鳥類繁殖分布調査は過去1973〜1978年と1993〜1997年に実施されており,今回,3回目の調査として2016年から2021年にかけて実施した。東京都を約1km四方の3次メッシュで区切り,各セル内に調査コースを設定した(合計2,344コース)。この調査期間中,繁殖期の早朝に2回の現地調査を実施した。また,現地調査に加えて,文献情報や鳥類観察記録を収集・集計し,メッシュ内の鳥類の状況を把握した。このデータセットは,この時期の日本の鳥類の分布を評価しようとする研究者や保護のために役立つと考えられる。そこで,希少種の保護のために5kmメッシュに情報を集約して公開した

キーワード: 東京都鳥類繁殖分布調査,分布図,メッシュ