日本の温帯林におけるサトイモ科カントウマムシグサの種子散布者としての鳥類の有効性:果実の持ち去り量と発芽への影響

Bird Research 16: A1-A14


大石里歩子・前田大成・北村俊平

 種子散布とは種子が親個体から離れて移動することであり,風や水などの媒体を利用する風散布や水散布,鳥類や哺乳類を媒体とする動物散布などがある.サトイモ科テンナンショウ属の多くは秋に赤色の液果をつける.本研究では,自動撮影カメラを用いてカントウマムシグサ Arisaema serratum の果実消費者とその持ち去り量を3年間にわたり調査し,その量的に有効な種子散布者を解明することを目的とした.さらに量的に有効な種子散布者が散布した種子の発芽実験を行い,質的な有効性についても検討した.調査は石川県農林総合センター林業試験場と金沢大学角間キャンパス里山ゾーンで行った.カントウマムシグサの果実を利用する動物を調べるため2013年秋から2016年春にかけて自動撮影カメラを設置した.計60個体(2013年: 11個体,2014年: 20個体,2015年: 29個体)のカントウマムシグサについて果実持ち去り動物を記録し,動物種毎の訪問頻度と持ち去り数を計数した.果実を採食した鳥類の訪問頻度の上位3種は,シロハラ 180回(47%),ヒヨドリ 118回(30%),コマドリ 40回(10%)だった.果実の持ち去り数の上位3種は,ヒヨドリ 573個(31%),シロハラ 481個(26%),トラツグミ 98個(5%)だった.ヒヨドリが散布した種子の発芽率は100%(N=129),シロハラが98.8%(N=163),種子をそのまま播種した場合が97.1%(N=834)で,有意差は見られなかった.異なる調査地で3年間を通して,訪問頻度と果実持ち去り数が上位であったヒヨドリとシロハラはカントウマムシグサの量的に有効な種子散布者と考えられた.さらにヒヨドリとシロハラは発芽能力のある種子を数十メートルの範囲内に散布する可能性があることから,質的にも有効な種子散布者である可能性が高いと考えられた.

キーワード: 自動撮影法,種子散布,種子食害,ヒヨドリ,シロハラ




岩手県沿岸部におけるミサゴの育雛期の食性

Bird Research 16: A15-A24


森航大・榊原貴之・野口将之・吉井千晶・東淳樹

 岩手県沿岸部におけるミサゴの給餌の実態を明らかにするため,2018年の育雛期に巣内観察カメラを設置し,その映像解析を行なった.魚種の同定,おおよその全長の測定,魚類の既存文献値をもとに湿重量の推定をした.2巣にカメラを設置した結果,両つがいともにダツ目の搬入回数が最多で,サバ科やアジ科,コイ科,ボラ科なども多く搬入された.推定湿重量ではサバ科とボラ科の値がそれぞれのつがいで最大となり,雛の成長に重要な餌資源であることが示唆された.これらの魚類は表層や浅瀬,流れが緩やかな環境に生息しているものが多く,表層を泳ぐ魚類を捕獲する本種の狩り行動の特性とも対応していた.ミサゴが搬入した魚類は特に海水魚で季節性が見られた一方,淡水域から沿岸域にかけて生息するウグイ属やフナ属のようなコイ科は育雛期間を通してミサゴの餌資源となっていた.また,両つがいで育雛後期にかけて給餌1回あたりの推定湿重量が有意に大きくなっていた.搬入された魚類の生息環境の特性から,湾内や河口部が主要な狩場であると推察される.災害復旧工事に伴う本種の採食環境の悪化が懸念される現在,推察された狩場への配慮が求められる.

キーワード: 給餌内容,魚類,採食環境,巣内観察カメラ,ミサゴ




都市公園におけるササゴイの繁殖成績と営巣樹種の変化

Bird Research 16: A25-A37


平野敏明

 ササゴイ Butorides striata は北アメリカを除くほぼ世界的に分布する種であるが,繁殖成績などの繁殖生態についての情報は少ない.そこで,栃木県宇都宮市の都市公園で2012年から2019年に本種の調査を行ない,繁殖生態,つがい数や営巣樹種の変化と繁殖成績との関係について明らかになったことを報告する.繁殖つがい数は,2012年から2016年まで徐々に増加したが,2017年以降減少した.調査した8年間に合計113巣が記録され,1巣あたりの巣立ちヒナ数は調査年により有意に異なった.巣は,地上から平均17mの高さにあり,細い枝に造られた.営巣木は,2012年から2014年にはヒマラヤスギでの営巣が多かったが,2015年以降はケヤキが多くなった.繁殖失敗の原因として,著者が把握できた範囲ではカラス・哺乳類による捕食,風による被害が記録されたが,多くの場合は不明だった.

キーワード: 営巣樹種,ササゴイ,都市公園,繁殖成績




積算気温をもちいたウグイスの初鳴き日の推定

Bird Research 16: A39-A46


太田佳似・植田睦之

 2005年から2019年にバードリサーチが実施した「季節前線ウォッチ」のウグイスの初鳴き日を使用してウグイスの初鳴きを積算気温で予測するモデルを作成した.最初に全国39地点の周囲80km以内で観察された初鳴き日の誤差が最小となる有効積算気温を求め,次にその有効積算気温とそれぞれの地点の平均気温との関係式を求めることで,全国のウグイスの初鳴き日を推定するモデルを作成した.そのモデルを2020年の初鳴き日をもちいて検証すると,平均的な初鳴き日と比べてよく予測ができており,有効積算気温によるウグイスの初鳴き日の予測が有効であることが示された.

キーワード: ウグイス,生物季節,積算気温,初鳴き




鳥類繁殖分布調査報告書から分析した北海道の鳥類の分布の変化

Bird Research 16: A47-


玉田克巳

 全国の鳥類の分布を1974-1978年と1998-2002年に調べた環境省の「鳥類繁殖分布調査報告書」から,北海道の鳥類の分布域の変化と,その特徴を明らかにした.北海道では,夏鳥で分布が縮小,変化なし,拡大している種がそれぞれ確認されたが,縮小している種では分布域が大幅に縮小している種が多かった.留鳥については,縮小している種の割合が少なく,拡大している種の割合が高い傾向がうかがえた.生息環境についてみると,夏鳥では,分布が縮小している種は,草原や農村に生息する種だけでなく,森林に生息する種も相応に確認された.また拡大している種については,草原や農村に生息する種の割合が少なく,森林に生息する種が多かった.分布域が特に縮小していた種は,ハリオアマツバメ Hirundapus caudacutus,アカモズ Lanius cristatus,シマアオジ Emberiza aureolaの3種であった.アカショウビンHalcyon coromandaは全国的には分布が拡大していたが,北海道では分布域が縮小していることが明らかになった.また,オオジシギGallinago hardwickii,モズ L. bucephalus,ヒバリAlauda arvensis,スズメPasser montanusなど,近年個体数が減少しているという報告がある種は,今回の分析では著しい分布域の縮小傾向は確認されなかった.今後,これらの種については,生息数の動向を注視していく必要がある.

キーワード: アカショウビン,生息環境,繁殖分布調査報告書,ハリオアマツバメ,北海道




キョウジョシギによるコアジサシ卵の捕食

Bird Research 16: S1-S5


奴賀俊光・松村雅行・北村亘

 キョウジョシギが地上営巣性鳥類の卵を捕食する例は海外では報告されていたが日本では報告されていない.キョウジョシギがコアジサシの卵を捕食することが2か所で観察され,録画をすることに成功した.特定の個体のみが示す稀な行動であると考えられたが,絶滅危惧種であるコアジサシ保全のためには対策を講じる必要性が生じるかもしれない.

キーワード: キョウジョシギ,コアジサシ,卵捕食




北海道旭川の春の渡り期におけるオオムシクイの通過時期

Bird Research 16: S7-S9


高山裕子

 北海道旭川市内の公園で2017年から2020年の春の渡りの時期に週5回程度の頻度で観察を行ない,オオムシクイの渡りの通過時期を明らかにした。
確認時期は年によって異なったが,オオムシクイは5月下旬から6月上旬に多く記録され,6月下旬にはほとんど記録されないことがわかった。さらにバードリサーチのデータベースにある73件の北海道でのオオムシクイの記録もあわせて検討すると,オオムシクイが渡りで通過するのは5月下旬から6月中旬にかけであることがわかった。オオムシクイは渡りの時期が遅いため,繁殖期にオオムシクイが観察されてもその場所が繁殖地なのか中継地なのかの判断が難しかったが,6月下旬以降にオオムシクイが繁殖環境である森林で記録された場合には,その場所での繁殖の可能性が考えられ,注意深い観察が望まれる。

キーワード: オオムシクイ,繁殖地,渡り時期