ベランダバードウォッチも2007/08年の冬(以下今冬)で 3年目を迎えました。今年の冬はどんな結果が得られるのかと,冬の間からわくわくして皆さんのデータが届くのを待ち焦がれていました。というのも,昨冬は,既にお知らせしたように,ツグミの飛来が早かったり,ウソや山地性の鳥が平野部にも多く飛来したのが特徴でした。今年のデータは,今年の冬の特徴を教えてくれるのと同時に,昨年までの 2年間の冬の傾向をさらにはっきりと表してくれるからです。
さて,今冬はどうだったのでしょうか。4月 5日までに全国から届いた,家の周りの調査28か所,家での調査27か所の結果に基づいてまとめました。
家のまわりの調査による季節変動
図 1に,家の周りの調査で得られた結果のうち,季節移動をする種で,しかもある程度記録率が高い種を選んで,3冬の記録率の季節変化を示しました。
まず,ジョウビタキの記録状況をみてみると,10月中旬から記録され始め,その後11月下旬にかけて記録率が上昇しています。この傾向は,一昨年や昨年の冬期とほとんど同じでした。ジョウビタキの渡来時期は,年によってほとんど変動がないことが改めてわかりました。そして,その後は減少し,12月中,下旬に一旦増加しました。この12月中・下旬に一旦増加する傾向は,昨冬も記録されています。ともすると積雪などで山地や北国から 2回目の移動があるのかもしれません。
ツグミは,10月下旬から記録され始め,その後12月上旬にかけて記録率が増加しました。そして,その後も増加傾向にありました。昨年と比較すると,記録率の傾向はほぼ同じでしたが,秋の飛来が約10日遅く,その後の変化も10日ほどずれていました。その結果,秋のピークが2005/06年も2006/07年も11月中旬なのに,今冬は11月下旬でした。どうも,今冬は,山に木の実が多かったせいか,平地へ降りてくるのが遅く,しかもだらだらと続いたようです。
図 1. 家のまわりの調査で記録された代表的な種の記録率の季節変化
ところで,バードリサーチがベランダバードウォッチと同時に実施している冬鳥ウォッチに協力していただいている方々から,今冬はシメが多いという情報が寄せられました。そこで,シメの記録状況を過去の 2年の冬と比較してみました。すると,シメは昨年同様に10月中旬から記録され始めましたが,11月中旬にピークがあり,その後も記録率は過去 2シーズンに比べて高い傾向がみられました。このことは,越冬個体数が多かったことを示しているものと思われます。
シジュウカラは,毎年10月中旬に記録率のピークがあるのは 3シーズンとも同じでしたが,その後の記録率は昨年と比べると大変低く,2005/06年とほぼ同じ傾向でした。
さらに,記録率が著しく違っていたのは,カケスとヤマガラです。カケスは,昨冬では11月下旬まで記録率20%を維持し,多いときには30%を超えていました。その後も多少ばらつきはあるものの,10%前後が記録されました。ところが,今冬は10月上旬に 8%が記録されたあと,まったく記録されませんでした。2005/06年の冬よりさらに低い記録率です。
この傾向は,ヤマガラも同じです。昨冬は,10月から11月上旬にかけて30〜40%の記録率があり,その後減少したものの10〜20%で推移しました。2005/06年もばらつきはあるものの,10〜20%の記録率が多くみられました。ところが,今冬は10%にも満たず,記録率 0%もありました。
以上のように,家の周りの調査から大変面白い傾向が得られました。カケス,ヤマガラ,さらにはシジュウカラの記録率は,今年の秋冬期には山(林)に食物が多く,ベランダバードウォッチの調査地である住宅地近くへあまり飛来しなかったことを表しているようです。ツグミの飛来が10日遅く,しかも,記録率の上昇がだらだら続いたことも,それを示しているのかもしれません。言い換えると,逆に,昨年の冬に山の木の実が少なく,人里近くに飛来してきたのかもしれません。今年の冬の傾向も引き続き同じ調査を続けることで,さらにはっきりと分かるでしょう。
家での調査から
今冬は,家での調査では前述のように47種が記録されましたが,この種数は昨年と同じでした。調査地が多少異なっていることを考えると,ちょっとした驚きです。おそらく,住宅地周辺に生息する種は,年による違いも場所による違いも少なく,ある程度決まっているためかもしれません。
調査地あたりの記録種数は,6〜10種が調査地の44%で最も多く,次いで11〜15種が30%でした(図 2)。21種以上記録された調査地も 7%あり,最多種数は28種でした。一方,5種以下と種数が少ない調査地は,調査回数が少なかったことが理由と考えられます。調査回数を重ねればそのような調査地でも,まだ何種かの鳥が記録されると思われます。
図 2.調査地別の記録種数
次に,記録率の高かった上位10種の記録率を図 3に示しました。こちらも,上位10種の顔ぶれは昨冬とまったく同じで,ヒヨドリが最も高く95%,次いでスズメ86%,メジロ71.5%,ハシブトガラス64%,ムクドリ54%の順です。昨年と比較すると,メジロとハシブトガラス,ハシボソガラスで多少異なるものの,両年でほとんど同じ傾向がありました。
図 3.「家での調査」でよく記録される鳥の記録率の違い
図 4に,主な種の個体数の記録状況を,生息が記録された調査地の最多個体数をもちいてヒストグラムにまとめました。ヒヨドリは,全調査地(27か所)で記録され,1〜21羽,調査地あたりの最多個体数の平均は6.4羽でした。3羽以下の調査地は44%を占め,4〜6羽が記録された調査地を含めると,全体の70%になりました。一方,14羽以上記録された調査地も11%ありました。スズメは,2〜70羽,平均17.9羽が記録されました。記録された調査地の42%は 9羽以下でしたが,40羽以上の調査地も12.5%ありました。この時期,スズメの個体数は,調査地の周りの環境によって異なるのかもしれません。
都市部や住宅地で厄介者扱いされるハシブトガラスは,20か所で記録され,最多個体数が 1〜7羽,平均最多個体数 3羽でした。個体数が 4羽以下の地域は95%を占め,思ったほど個体数が多くありませんでした。これは,ベランダから見える範囲ではせいぜい 1つがいか 2つがいのハシブトガラスが観察されるためなのでしょう。同じようにキジバトも記録された調査地の80%は 2羽以下でした。
一方,林だと群れで観察されることの多いメジロは,1羽から25羽,平均最多個体数5.6羽が記録されました。最多個体数は,3〜4羽が44%と最も多く 2羽以下を含めると全体の68%になり,全体的に個体数は少なめでした。ムクドリは19か所で 1〜30羽が記録され,平均最多個体数は8.5羽でした。最多個体数は結構ばらつきが多く,3羽以下が37%と最も多かったものの,他の個体数ランクも11%〜20%ありました。
家での調査は,観察範囲が厳密に定められていませんので,見晴らしの良さの違いでも記録される個体数に違いがあるものと思われます。しかし,このような個体数であっても,長年同じ場所で同じ方法で調査することで,生息個体数のモニタリングは可能だと思われます。
引き続きご協力よろしくお願いいたします
以上のように,今冬のベランダバードウォッチの結果を紹介しましたが,ツグミやシメ,ヤマガラ,カケスたちの生息状況は,皆さんのフィールドで観察されたことと同じでしたでしょうか。それとも,違っていたでしょうか。もし,傾向が同じだったのなら,ベランダバードウォッチの真価の一端を示すことができ,大変嬉しい限りです。「来年の話をすると鬼が笑う」といいますが,2008年の冬の調査は,今年の冬や一昨年の冬の特徴をさらに明確にしてくれるでしょう。そのためにも,一人でも多くの方に参加していただければと思います。継続は力なりです。次は,繁殖期です。ぜひ,ご協力ください。最後にご協力いただいた皆様のご芳名を記してお礼に代えさせていただきます。
新井清雄,有川章子,飯泉仁,猪飼幹太,石口富實枝,石田健,石原浩一郎,石丸英輔,今森達也,植田明子,植田睦之,上西庸雄,内野 恵,大塚啓子,勝股弘毅,加藤晴弘,金高洋子,川畑 紘,菊地有子,北原克子,吉家奈保美,木村雅世,神山和夫,小荷田行男,小林俊子,斉藤けい子,齋藤映樹,坂田樹美,白石健一,白須文康,鈴木康之,田中利彦,長嶋宏之,花房ゆかり,原田正之,平野敏明,藤原淳子,三田長久,三橋立,三浦祝子,宮崎謙二,安田耕治,山田昭光,山野敬二,吉邨隆資の各氏(五十音順)。
また,株式会社バイトルヒクマおよびセブン-イレブンみどりの基金のご支援を受けました。ありがとうございました。