ベランダバードウォッチ−身近な野鳥調査−を始めます
身近な鳥が減っている調査方法と参加方法調査結果入力調査結果



ベランダバードウォッチ2007年繁殖期 調査結果


 ベランダバードウォッチもこの夏で 3年目を迎えました。今年は,春先こそ肌寒い日が続きましたが,梅雨明け後は全国的な猛暑となりました。このような気象現象は鳥たちの暮らしぶりにどのような影響を及ぼしたのでしょうか。9月15日までに送付いただいた調査結果から,今夏および過去 3年間の 4月から 8月までの身近な鳥たちの生息状況をまとめてみました。


2007年夏の記録

 2007年は「家での調査」32名,「家の周りの調査」27名,合計42名の方にご協力いただきました。その結果,家での調査 62種,家の周りの調査 83種,合計90種が記録されました(表 1)。
家での調査の記録率が高かった種は,スズメ,ヒヨドリ,ツバメ,ムクドリ,ハシブトガラス,キジバト,ハシボソガラス,シジュウカラでした(図 1a)。一方,家の周りの調査では,スズメ,ヒヨドリ,ハシボソガラス,ツバメ,ハシブトガラス,ムクドリ,キジバト,シジュウカラで,順位こそ多少異なりますが,上位 8種の顔ぶれはどちらの調査でも同じでした(図 1b)。この傾向は,過去 2年間の調査でも同じで,これらの種がわが国における身近な鳥の代表的な種と言えそうです。


表1.2007年繁殖期の記録種一覧(家の周り,家での調査を含む)
1
カイツブリ
31
ホトトギス
61
センダイムシクイ
2
カワウ
32
アオバズク
62
セッカ
3
ゴイサギ
33
フクロウ
63
キビタキ
4
ササゴイ
34
ヒメアマツバメ
64
エナガ
5
アマサギ
35
アマツバメ
65
ハシブトガラ
6
ダイサギ
36
カワセミ
66
ヒガラ
7
チュウサギ
37
アオゲラ
67
ヤマガラ
8
コサギ
38
アカゲラ
68
シジュウカラ
9
アオサギ
39
コゲラ
69
メジロ
10
マガモ
40
ヒバリ
70
ホオジロ
11
カルガモ
41
ツバメ
71
カシラダカ
12
コガモ
42
コシアカツバメ
72
アオジ
13
ミサゴ
43
イワツバメ
73
カワラヒワ
14
トビ
44
キセキレイ
74
マヒワ
15
オオタカ
45
ハクセキレイ
75
ウソ
16
ツミ
46
セグロセキレイ
76
イカル
17
サシバ
47
ビンズイ
77
シメ
18
チゴハヤブサ
48
サンショウクイ
78
スズメ
19
チョウゲンボウ
49
ヒヨドリ
79
コムクドリ
20
キジ
50
モズ
80
ムクドリ
21
ヒクイナ
51
ジョウビタキ
81
カケス
22
バン
52
ノビタキ
82
オナガ
23
コチドリ
53
イソヒヨドリ
83
カササギ
24
イカルチドリ
54
アカハラ
84
ハシボソガラス
25
ケリ
55
シロハラ
85
ハシブトガラス
26
イソシギ
56
ツグミ
86
コジュケイ
27
オオセグロカモメ
57
ウグイス
87
ドバト
28
コアジサシ
58
オオヨシキリ
88
ホンセイインコ
29
キジバト
59
メボソムシクイ
89
ワカケホンセイインコ
30
カッコウ
60
エゾムシクイ
90
ガビチョウ


図 1.家での調査と家の周りの調査による 3年間のおもな種の記録率の比較.
a:家での調査,b:家の周りの調査

3年間の「家での調査」と「家の周りの調査」の記録率の比較

 次に2005年から2007年の 3年間の夏の結果から,記録率や記録個体数(個体数ランク)を比較してみました。家での調査と家の周りの調査とも記録率の上位種は,3年間で順位こそ多少違うものの同じメンバーでした(図 1)。特に,ツバメはどちらの調査でも 3年間の出現率がほとんど同じでした。これは,ツバメが人家に営巣し家の周りを頻繁に飛び交うので目に付きやすいためではないかと思われます。2005年のハシボソガラスは,2006年や2007年と比べると著しく記録率が少ない傾向がありました。ただ,その違いが何によるのかははっきりしませんでした。
 また,上位 8種の記録率は,家の周りの調査の方が家での調査よりすべての種で 3年とも高い傾向がありました。たとえば,キジバトは家での調査では約50〜60%であるのに家の周りの調査では約80%でした。同様に,出現率が 8種中最低のシジュウカラでさえ,40%に対し約60%ありました。これは,前述の記録種の多少と同じで,家の周りの調査の方が,より広い範囲を調査するために,記録される確率が高くなるためと思われます。

 

「家の周りの調査」3年間の比較

 家の周りの調査は毎年 4月から 8月にかけて10日ごとに記録します。そこで,記録率上位 8種の記録率(図 2)や個体数(図 3)の年ごとの季節的変化をまとめてみました。
 まず,上位 8種の 3年間の記録率は,ツバメを除くとすべての種で著しく異なっていました(図 2)。ツバメは,3年間で概ね同じ季節変化がみられました。すなわち,4月上旬から増加したあと,4月下旬に一旦減少し,その後再び増加し,7〜8月には減少しました。一方,年によるばらつきが多い種でも,記録率の季節変化の部分的な傾向は 3年間で似ている種が多くいました。たとえば,ヒヨドリでは 8月上旬から中旬に,シジュウカラでは 7月上旬から 8月上旬にかけてそれぞれ減少したあと,どちらも 8月下旬には再び増加しました。これは,繁殖期が終わると,換羽期に入るために動きが不活発になり,記録されにくくなるのかもしれません。そして,換羽がある程度済むとまた活発になるために目に付きやすくなるのではないかと思われます。スズメとキジバトでは今年の夏の記録の低下が見られましたが,猛暑の影響はあまり認められませんでした。
 同じことは,記録個体数の季節変化にも言えます(図 3)。細かいところは違うのですが,全体的な変動は 3年間で結構似ています。また,スズメやツバメ,ハシボソガラス,シジュウカラでは2006年と2007年の記録数の季節変化のパターンが大変類似していました。さらに,ツバメは,記録率と同様に 3年間の記録数の季節変化の傾向が著しく類似していました。調査地が年によって多少異なっていることを考えると,興味深い結果と言えます。なお,多くの種で,記録率が高くなる時期には,個体数ランクも増加する傾向がありました。個体数が多くなると発見しやすくなって記録率が高くなるものと思われます。


図2.「家の周りの調査」によるおもな種の3年間の記録率の季節変化



図3.「家の周りの調査」によるおもな種の3年間の平均個体数ランクの季節変化



「家での調査」による3年間の比較

 年によって記録個体数がどのくらい変化するのかを,家での調査からまとめてみました。家での調査を 3年間継続して行なっていただいた 9か所の上位10種の年ごとの平均個体数を図 4に示しました。ツバメのように年によってあまり違いがない種もいますが,多くの種では平均個体数が年によって変動することがわかりました。調査を通して記録率の最も高いスズメでも,平均個体数が年によって約50%も違っている調査地が 9か所中 5か所もありました。また,全体的に個体数の少ないシジュウカラは,同じ調査地でも記録される年とされない年がありました。これらのことは,家での調査では観察範囲が限られてしまうため,行動圏の位置が年によって少し移動しただけで出現率が変わり,個体数も違ってくるのだと考えられます。このことは,家での調査の年による記録種の重複度からも示唆されます。
 図 5は,2006年と2007年に同じ場所で調査を実施した14か所の家での調査における記録種の重複度をまとめたものです。重複度が94.4%と高い調査地もありましたが,多くの調査地では重複度が60〜79%でした。さらに 1か所と少なかったものの,重複度が35.7%しかない調査地もありました。

 

図4.「家での調査」9か所の調査地におけるおもな種の平均個体数の3年間の比較

      
図5.家での調査による2006年と2007年の記録種の重複度.
重複度は,2006年と2007年の両方で記録された種数を2年間に記録された全種数で割った値に100を掛けて算出した



 以上のように,この 3年間の夏のベランダバードウォッチでわかったことは,日本の住宅地付近に生息する代表的な種はスズメやツバメ,ヒヨドリ,キジバト,ムクドリ,ハシブトガラスなどの種であること,そしてこれらの種の記録率や個体数は年によって結構変動することでした。必ずしも,すっきりした結果は得られませんでしたが,この種の調査は10年,20年と長期に渡って続けることで,初めて全体的な傾向がみてとれるようになります。また,調査地による変動は,調査地数が増えればそのばらつきも少なくなるのではないかと思われます。さらに,調査地が多くなれば地域ごとの傾向を解析することができます。これからも一人でも多くの方がこのベランダバードウォッチに参加していただければ嬉しい限りです。そして,ベランダバードウォッチが皆さんの日課の一部になることを期待しています。最後に,2005年からの夏の調査者の皆さんのご芳名を下記に掲載してお礼に代えさせていただきます。
 今年も冬鳥の便りが届く季節になりました。昨冬はツグミの記録時期が約1か月早かったのですが,今年はどうでしょうか。今年は山に木の実が豊富なようですので,ともすると2005年の冬期のような出現パターンになるのでしょうか。今から楽しみです。冬のベランダバードウォッチもぜひ宜しくお願いいたします

 

 秋野恭子,新井和雄,新井清雄,荒石恭至,新井陽子,荒川欽松,荒木廣治,飯泉 仁,石口富實枝,石崎友紀子,石田 健,石丸英輔,石山 大,猪飼幹太,今森達也,岩切康二,岩渕和信,岩見 勝,植田明子,植田睦之,上西庸雄,上原勇一郎,内野かおる,内野 恵,大内ひとみ,大槻公彦,岡崎一也,小川五郎,香川正行,梶田あまね,桂千恵子,加藤晴弘,金子はる子,川畑 紘,川端一彦,吉家奈保美,木津ユリ,木下香菜,木村雅世,具志堅葉子,國末保文,久保田広治,熊木博幸,栗田 唯,黒沢令子,桑原民生,群馬県立中央中等教育学校科学部,小池登志雄,神山和夫,小関幸子,小荷田行男,小林俊子,小室智幸,斉藤けい子,齋藤映樹,坂田俊平,佐々木貴広,笹本亨太,佐藤好美,佐野清貴,澤村信之,重本珊志郎,白石健一,白井康博,白須文康,関 宰,高木憲太郎,田中裕子,高野敏枝,高橋 哲,高橋賢政,高橋昌也,高羽みどり,竹内時男,田中利彦,田中葉子,永井健介,中川 梢,長嶋宏之,中村暎枝,中村宏雄,中村有佳,奈良真由美,成田雅彦,成瀬小夜子,西田澄子,花房ゆかり,原田正之,原 靖之,平野敏明,深瀬悦子,福島孝子,藤井幹夫,藤本洋子,藤原淳子,堀 純司,三浦祝子,三田長久,宮崎謙二,森 俊彦,森 春奈,安田耕治,山口誠治,山崎 智,山野敬二,山本征嗣,吉田邦雄,吉野智生,吉邨隆資,渡部晋子 以上110名のみなさん(五十音順)。また,株式会社バイトルヒクマおよびセブン-イレブンみどりの基金のご支援を受けました。ありがとうございました。



身近な鳥が減っている調査方法と参加方法調査結果入力調査結果